阪神・淡路大震災の復興プロジェクト
95年1月17日の阪神・淡路大震災の大規模な被害は、いまだ記憶に新しい。この震災からの復興に向けて、当社は被災当初の被害状況把握に始まり、神戸市復興計画や震災復興地区住宅市街地総合整備事業(六甲地区)の計画(95年、住都公団・神戸市)に携わった。さらに続けて神戸市東部新都心住宅地(HAT神戸) (95-97年、住都公団)などの震災復興住宅の計画・設計、分譲マンション再建支援やまちづくり協議会支援(芦屋西部、森南地区)などの震災復興プロジェクトに全社を挙げて取り組んだ。
団地再生・都市再生の取り組み
95年以降は、住宅政策における「市場重視、ストック重視」の時代、都市政策における「都市再構築」の時代が本格化する。住都公団は、都市基盤整備公団(99年)へ移行し、「住宅・住宅地の大量供給から都市の基盤整備へ」業務の重点をシフトした。都市政策の面では、97年都市計画中央審議会が、都市化社会から都市型社会への歴史的転換をふまえ、今後は都市の拡張を抑制しコンパクトな都市構造への転換を図るべきであるとする都市政策ビジョンを公表した。国の都市再生プロジェクト(01年)や都市再生緊急整備地域の指定(02年-)などがすすめられた。
本格的なストック再生・ストック活用の時代を迎えて、当社は各地での団地再生、ニュータウン再生計画に先駆的取組みをすすめてきた。その代表的なものとして、香里団地再生計画(95-99年)、明舞団地再生マスタープラン(03-04年)、豊中市千里NT再生プラン(02年)、吹田市千里NT再生ビジョン(03-04年)などがある。
公営住宅ストック活用の取り組み
公営住宅ストック総合活用計画の制度創設にあたっては、最適改善手法を選択するためのマニュアル作成等に加わるとともに、山口県、埼玉県、日立市、港区等の各自治体の公営住宅ストック総合活用計画の策定を行った。兵庫県では、大団地リモデル計画(01年)、既存団地再生方策(02年)をとりまとめ、石川県営光が丘団地(01年)、福島県営蓬莱団地(01年、杜設計)、山口県営稗田団地(03-04年)等において、トータルリモデル事業に関する具体の計画設計を行っている。これらのプロジェクトで、当社は階段室型中層住棟に廊下を増設しエレベーターの効率的利用と各住戸へのフラットアクセスを可能とする技術を実現した。さらに、吊り構造を用いてローコストで廊下を付設するハングコリドーシステム(02年、BL部品開発コンペ入賞)を新日本製鐵と共同で開発し、その実用化に向けて試験施工(05年)を成功させている。さらに長崎県営諫早団地再生計画(04年)では、多様な手法を組み合わせた「段階的・総合的なリニューアル計画」の先導的モデルを提示している。
公団住宅の建替え
この時期、公団の昭和30年代建設の大規模団地の建替事業が本格的展開の時期を迎えた。当社は、多摩平団地(89年-)、上野台団地(95-05年)、東久留米団地(95年-)、豊四季台団地(04-10年)の各団地の建替事業の全体計画、建物配置設計、住棟設計、デザインガイドライン策定などの業務に参画し、長期に及ぶ事業に継続的に取り組んでいる。
分譲マンションの建替え
一方で、老朽化した民間分譲マンションの建替え問題も重要な課題として浮上してきた。当社は、この領域でも先行的な取り組みをすすめ、千里NTにおける分譲マンション建替の第1号として実現した新千里西町K-A団地(フォルム千里中央:95-96年)を皮切りに、同じく千里ニュータウン内の深谷第一住宅(ガーデンヒルズ千里中央:01-03年)、桃山台団地や豊中市旭ヶ丘第二住宅等のマンション建替支援業務に取り組んだ。そうした経験を生かしつつ、国のマンションの円滑な建替え手法の開発(総プロ:98-01年)やマンション建替え円滑化法制定に関連する調査等に協力した。
地域性を活かした住まい・高齢者に配慮した住まい
地域性を活かした住まいづくりや、高齢社会に対応する住まいづくりなどのテーマへの取り組みは、80年代の試みをさらに発展させるものとなった。鹿児島県財部町営ウッドタウン財部(89年)、名瀬市営真名津団地(90-94年)、山口県美東町営白土団地・三本松団地(93-94年)、楠町営新栄住宅(92-96年)、熊本県営堀之内団地(91-95年)、大分県野津町営戸上団地(93年)、長崎県森山町営鍬崎団地(98-99年)、青森県営幸畑団地(97-98年)、茨城県営西十三奉行団地(00-01年)などで、それぞれの地域風土に根ざしたハウジングデザインを追求し、高い評価を得た。
高齢者の住まいづくりに関しては、各地のシルバーハウジング・プロジェクトを推進するとともに、コレクティブ・ハウジングの計画・設計について、先駆的取組みをすすめた。震災復興公営住宅として実現した一連の兵庫ふれあい住宅(95-98年)では、高齢者コレクティブとともに多世代居住型のコレクティブも試みられた。また、長崎県営本原すこやか住宅(01年)では、コレクティブ形式のシルバーハウジングを実現させている。
環境共生住宅
この時期、地球規模の環境問題を背景に、環境に責任ある環境共生型住宅へのアプローチが新たなテーマとして取りあげられた。岩村アトリエと共同で取り組んだ世田谷区深沢環境共生住宅(97年)は、わが国における環境共生住宅の先駆的モデルとして高い評価を受け、01年WorldHabitat Awardを受賞した。当社は引き続き東京都営蓮根三丁目住宅(98年)、埼玉県営三芳北永井森の里団地(98年)、山口県朝田ヒルズ(99年)、石川県営大桑団地(02年)、大分県臼杵市小郡の丘(02年)などの環境共生住宅団地への取り組みをすすめている。ハートアイランドSHINDEN(97-10年)は、公団が初めて「環境共生住宅団地」の認定を受けた東京都心近傍の大型団地であり、とりわけ街並みデザインに力を注いだ。
新木質構法の開発
住宅技術開発の側面では、新木質構法(RH構法、AKジョイント)が本格的実用段階を迎えた。耐震性、耐火性、遮音性、耐久性に優れたRH構法は、各地の木造三階建て共同住宅(木三共)に採用され、神戸市営押部谷住宅(95年)を皮切りに、鹿児島県営江口住宅(98年)、長崎県西海町営丹納第2団地(00年)、秋田県営手形山第一住宅(02年)、群馬県営・高崎市営金井淵団地(05年)などが当社の設計のもとに完成した。国の木造住宅総合対策事業として実施された府中市備後の家推進事業(98-01年)、益田市石州の家─万葉─推進事業(02年)において、AKジョイント技術を用いた試作住宅の制作や生産供給体制の整備に協力した。AKジョイントを用いた木造共同住宅として、鹿児島県営牧園小谷住宅(00年)、鹿児島県営・川内市営天辰平佐団地(02-04年)、山口県営美祢・来福台住宅(02-04年)、高崎市営山名団地(05-08年)等が完成を見ている。
この間、98年に佐藤健正が社長に就任し、小林は会長となる。